100: サービスは生身の人間への気くばり

※著書「心のしずく」より 〜アーカイブ100回連載シリーズ〜
※この記事は、平成八年〜平成十六年にかけて執筆されたものです。


 いい店にはきまっていいお客さまがついている。いいお客さまというのは、歯に衣を着せずに、忌憚のない意見や苦言を呈してくれる人のことを言う。気がつかないところ、弱いところ、足らざるところを敢えて教えてくれるのだから、これほど有り難いものはない。それら一つひとつに虚心に耳をかたむけ、問題点を正していけば、いい店になっていく。いい店と言うのは、ていねいにそのことができる出来る店のことをいう。

 小生などは気に入った店には極力物わかりのいいお客さまにならないように努めている。もっといい店になってもらいたいと心から思うからだ。

 店というのは、一にも二にもサービスの良し悪しで決まる。サービスの原点は気くばりだ。気くばりとは大層なことではなくて、機を見て敏に、いま自分ができるほんのちょっとした言葉なり仕草のことだ。このちょっとしたことが相手の心に響くのだ。そのためにはいかに自分をお客さまの視点や立場に置き換えられるかどうかだ。

 お客様の本当に望んでいることは何なのか、いますぐどうしてもらいたいのか、またどう気づいてもらいたいのか、そのことを常に念頭におくことだ。

 過日仲間たちと小旅行をしたときに、二つの対照的な接客サービスにあった。その一つは、昼食にと一階で買い物をしたおみやげ屋さんの案内で二階のレストランに入ったときのことだ。出されたメニューを見ながらあれこれと注文するのだが、肝心の食べたい料理がことごとく品切れだ、やれ時間がかかるということでらちがあかない。結局枝豆を一品と軽い飲み物を口にしただけで、長居は無用とばかりその店をあとにした。その時、店を紹介してくれた人が型どおりに申し訳ございませんでしたと謝ってくれたが、当方としては半分だまされたような不快な気分になった。ここで問題なのは謝り方だ。この時たとえ冷たいお茶の一本でもお詫びの印にと差し出されたら、多少とも心が和んだかもしれない。

 もう一つは、その後、遊覧船に乗ったときのことだ。われわれは団体割引の十五人には満たない十二人だったが、降りるときに料金の割り引き交渉をしようと思っていたところ、船長の朴とつとした温かい人柄と懇切ていねいな観光案内の語り口に、われわれはぞっこん魅了され、値引き交渉どころか反対にチップまではずんでしまった。

 サービスというのは、もとより理より情の世界のものだ。消費者とお客さまとは違う。統計的な数字の羅列で示される消費者ではなく、お客さまという生身の人間が相手であるということを忘れてはいけない。

 ここにあらゆるサービスの本質がある。

平成十六年七月三〇日

カテゴリー:著書「心のしずく」より
099: 相手を見て対応を考える

※著書「心のしずく」より 〜アーカイブ100回連載シリーズ〜
※この記事は、平成八年〜平成十六年にかけて執筆されたものです。


 こんな笑い話がある。

 ある街に鈴木さんと田中さんが住んでいました。両家は生垣を挟んで隣同士です。鈴木さんの家では庭の畑で野菜をつくっていました。他方田中さんの家ではニワトリを飼っていました。

 ところが田中さんの家のニワトリが両家のしきりにしている垣根をくぐっては鈴木さんが大事に育てている野菜を食い荒します。そこで鈴木さんの奥さんは思い余ってニワトリが入ってこないよう、幾度となく苦情を申し込むのですが、田中さんの奥さんは「ニワトリを一日中小屋に縛っておくのもかわいそうだからしょうがないでしょう」と言って一向にとりあってくれません。

 相変わらずニワトリを小屋から出します。せっかく丹精こめてつくっている野菜が台無しになってしまうので、困り果てた鈴木さんの奥さんは、ご主人に、「あなたニワトリを小屋から出さないようお隣に談判してくださいよ。もう我慢も限界だわ」とせまる。

 ご主人は「よし分かった。俺がうまく話をつけよう。そのかわり手土産がいる。卵を五個ばかり買ってきなさい」「あなた、隣がうちの畑を荒らすのよ。それなのに手土産とはどういう事ですか、おかしいじゃないですか」「ちょっと待て。俺には俺の考えがある。とにかく買ってきなさい」

 鈴木さんのご主人は奥さんが買ってきた卵をもって田中さんの家に行き、「実はうちの玄関の下駄箱の隅っこに卵が五個ころがっておりました。多分これはお宅のニワトリが来て産んでいったのではないでしょうか」そうすると田中さんは「ああそうでしょう。近頃どうもうちのにわとりのやつ卵の産みようが少ないので、どこか具合でも悪いのかなと心配していたところですよ」と悪びれる色もなく答えました。

 その翌朝のこと、早速田中さん夫婦はニワトリの出入できないように、せっせと垣根の手直しに精を出していたということです。浅ましい限りであるが、自分の欲得のためには他人の迷惑をかえりみない手前勝手な田中さんのような人は、てのひらをかえすように現金な行動に出るものです。

 こうして鈴木さんは田中さんに対して見事な対応で問題を解決したわけです。鈴木さんにとっては卵五個分のわずかなコストの負担で済みそれと引き換えに、生垣の修理代は田中さんの持ち出しになりました。

 「損して得とれ」という事であるが、日頃より相手の人間をよく見てその対応を考え、行動する事の大切さを教えられる話でした。

平成十六年六月三〇日


カテゴリー:著書「心のしずく」より
098: 勉強不足という恥

※著書「心のしずく」より 〜アーカイブ100回連載シリーズ〜
※この記事は、平成八年〜平成十六年にかけて執筆されたものです。


 日本の鉄道史上において、第一級の先駆者として新幹線をつくり上げ、望まれて後に宇宙開発公団に転出した島秀雄という人がいる。彼はこう述懐している。

 「技術的な課題に直面したとき『できない』と断る方がいちだんと難しい。『できます』というときは幾つかの手立てがある場合でもひとつ見つければそれで返事ができる。『できない』と断言するには、あらゆる道筋を読んで、その可能性をことごとく否定してしまわなければ、それが言えない道理である。『できる』と言ってできないと責任が重くなる事を恐れて何や彼やと受け渋るのに『できません』と割りにアッサリと言ってのけるのはどういうことだろうか」

 実に真理をついた言葉だ。今日まであらゆる分野で、一見難題と思われた事が次から次へと成し遂げられ、新しい歴史を切り拓いていった原動力とはまさにこういう積極性とプラス思考ではなかろうか。

 さて日頃、いろいろの人からの紹介で、いろいろの人が訪問してくれるのだが営業マンとしてあまりにもお粗末な人が少なくない。見込み客として商談に来られたはずなのに弊社の事をろくに調べもせずのぞんでくるのだからあきれてものも言えない。情報社会のこの時代にインターネットをはじめ、情報知識はどこからでも得られるはずなのに。

 こちらがやきもきするぐらいに、あまりにも無知なので、いたたまれず、おおよその事を説明すると、決まって口にするのは「勉強不足ですみません」と。

 準備の為の勉強はおろか、もともとその気などないのだ。こういう人は人の心はつかめないし、いつまでたっても商機をつかむことはできない。と同時にこういう人から後日お礼の手紙を頂いたためしはない。結果、せっかく紹介した人の顔にも泥を塗ることになる。そしてよかれと紹介した人も、面談の機会をつくってくれたことへの御礼の一言があってしかるべきだ。

 紹介する人も紹介される人も相手さまの事をよくよく考えなければならない。そのためにこちらはわざわざ忙しい時間をさくのだから。紹介というのはなかなか難しいものだ。安易にすることは怖い事だ。それなりの配慮が求められるからだ。そうでないと礼と恥をかく事になる。

 また一方的に独りでベラベラと知識をひけらかして喋りまくって帰る人もまた多い。一体全体この人は何をしに来たのかと首を傾げてしまう。相手の声に耳をかたむけ要望を掴みとるべく営業マンの基本的な姿勢が全く欠如している。小生にとっては時間とエネルギーの浪費で後味の悪いものだ。こういう人とは二度と会わない事にしている。

 他人事ではない。よくよく気をつけよう。

平成十六年五月三十一日

カテゴリー:著書「心のしずく」より
097: 啐啄同時はヒナと親鳥が同時に突く

※著書「心のしずく」より 〜アーカイブ100回連載シリーズ〜
※この記事は、平成八年〜平成十六年にかけて執筆されたものです。


 報・連・相(ホウレンソウ)の重要性ほど、知っているつもりで、本当は何も分かっていない人が少なくない。組織はタイムリーに心の通い合うコミュニケーションができてはじめて機能していくものだ。ホウレンソウは組織運営の基本中の基本だ。

「報告を怠ったために絶好のチャンスを逃がしてしまった」
「連絡がほんの少し遅れたために、取り返しのつかないことになった」
「前もって相談してくれていたら、いいアドヴァイスができたのに」

 ホウレンソウの大事なところは“スピードと密に”が生命線だということだ。それが欠けたら、今朝に昨日の朝刊を読むのと同じことで何の意味もない。ホウレンソウは幹部が率先垂範してこそ、チームを活性化し、さらに有能な人をつくっていくものだ。

 さて、ある老師からこんなことを教わった。禅に「啐啄同時(そったくどうじ)」という言葉がある。卵の中にいるひなが殻を破って孵る時、小さなくちばしで内から懸命に堅い殻を割ろうとするが、この好機をじっと待っている親鳥がこの時ばかり、間髪をいれずに外からくちばしで突くと、殻が見事に割れて、無事にひなが誕生するという意味である。ひなが生まれるには、ひな自身の生への強い執着心とグッドタイミングを見極める親鳥の思いと手助けがあってこそなせる業だ。

 この啐啄同時の原理は、学ぶことはもちろん、ほめたり、叱ったりして人を指導教育していくことに通じる。本人の問題意識や意欲のないときに、その原因や様子をしっかりと見ずして、いかに意見、忠告をしても、ぬかに釘、のれんに腕押しで、何の効果もない。時には思わぬ反感や嫌悪感すら相手に抱かれることになる。

 人づくりは「求める心」と「与える心」、つまり「育つ」「育てる」がうまくかみ合ってこそ効を奏する。「育つ」ために不可欠なことは、いかなる厳しい状況下にあっても、向上心をもち続けることだし、人から学ぶことを常に心がけることだ。

 また「育てる」ためには、日頃から相手の性格や言動、さらに業績やデーターをよく注視し、機を見て敏に指導していくことが肝要だ。打てば響くように成るには、何よりも深い愛情と強い関心をもっていなければ、その業はできるものではない。

 日常茶飯事によくあることだが、ダメ上司は「頑張れ」のかけ声だけだ。有能な上司は、部下と問題を共有し、一緒に考え、「こうせよ」と具体的な指示を与える。さてあなたはどちらの上司にあてはまるのか。

平成十六年四月二十八日

カテゴリー:著書「心のしずく」より
096: マイナス思考は人を駄目にするウイルス

※著書「心のしずく」より 〜アーカイブ100回連載シリーズ〜
※この記事は、平成八年〜平成十六年にかけて執筆されたものです。


 ここかしこで、ムクムク、ニョキニョキと薄紅色、萌え黄色、乳白色に新芽が初々しい顔をのぞかせている。柔らかな陽ざしを浴びて、それぞれが、まばゆいばかりの光沢を放っている。いよいよ春だ。生命に清新の息吹きが吹き込まれ、まさに出発に相応しい季節だ。気分を一新し希望に向かって邁進するときだ。この先開花結実するためには、ほとばしるような熱情と気概が不可欠だ。

 人生にあって希望を持つことほど意義のあることはない。希望をもつから魂が磨かれ、生命がふくらみ、心身が充実していく。

 希望のない者は音楽なしに踊るようなものでステップがおぼつかずダンスにはならない。希望は軽やかなリズムをつくり、努力と工夫を促し、生き抜く力を養成してくれる。人を成功へと導いてくれる。どんな時でも決して絶望してはいけない。困難なときこそ希望は勇気の力を与えてくれる。

 さてフレッシュマン(だけに限らないが)に言っておこう。職場は仕事をするところだ。自己実現の最たる場だ。仕事の本当の面白さや楽しさを感じるようになるには、少々の時間がかかるものだが、そこまでに行くには辛い苦しいことの方が多くて当然だ。そういう時に、周りに心の通い合う温かさや親身になって励ましてくれる人たちがいると苦しみも耐えていけるようになる。

 そのためには人に対して自分の行ないを顧みることだ。人に好かれたいと思うなら、先ず自分の方から人を好きになることだ。受け身では何もよくならない。人から与えられるのを待つのではなく、自分にいま何が出来るかをよく考えることだ。

 フレッシュマンにとって、初のお客様に接するときと同じように、職場での第一印象というのは、その先を決めてしまうほどの大きな意味がある。第一印象は、元気で明るく積極的な態度が望ましい。そんなことを言われても、私は内向的な性格なので、それは無理だときめつけないことだ。安心せよ、世の中のほとんどは内向的で、外向的な人は極めて珍しいのだ。

 仕事には自分を変化させ進化させる魔力がある。自分の可能性を掘り起こし磨き鍛え新しい自分を作ってくれる。元気にするから元気になれる。自信をもつから自信ができていく、要は考え方ひとつでいかようにも人は変われる。常に「私は出来る」と念じてやれ、できないと思ったら、すぐさま心のすきまにドドッとマイナス思考が容赦なく入り込んでくる。マイナス思考は人をダメにする最悪のウィルスだ。用心しておけ。

平成十六年三月三十一日


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